病院の看護部との研究会の実施と結果
P.H.L.が提唱する介助者の腰痛を予防し、利用者の活動を活性化する「持上げない移動・移乗技術」の研修を、2005年6月から2年半に亘り千葉県の地域中核病院の1つである国保立成東病院の看護部と協同で実施してきた。2007年8月に病院の看護部が実施してきた技術の普及と定着に向けての取り組みについて、2時間に亘りインタビューを行った。「持上げない移動・移乗技術」が現場に定着するためには、長期のプロジェクトによる組織変革の必要性があり、病院の看護部は試行錯誤を繰り返しながら、現場に技術を定着させていた。定着している技術としては、(1)ベッド上での上方移動、(2)ベッドからストレッチャーなどへの水平移動、(3)褥瘡予防のための小枕の移動があげられた。有効な福祉用具として、トランスファーボード、トランスファーシート(するーと)、小枕、溝埋めグッズ、紐(帯)などが活用されていた。
また、看護の職員全員(186名〜193名)に対し、3次に渡る縦断パネル調査を実施した。その結果、腰部への身体的負荷の軽減効果に関しては、研修を通した技術の熟練が進むに従い、腰部の身体症状の良好さを認識する介助者の割合が、「頻繁に」以上に頻回に技術を実践している介助者であっても(8.2ポイント増加)、「ときどき」や「たまに」の頻度でしか実践していない介助者であっても(6.8ポイント増加)、ともに増加することが明らかになった。言い換えると、持ち上げない移動・移乗技術は、たとえ「たまに」くらいの頻度の実践であったとしても、介助者の腰部への身体的負荷を軽減する可能性が高いことが示唆された。しかしながら、持ち上げない移動・移乗技術が実践されても、その実践頻度の多寡にかかわらず、頸部への負荷に起因すると想定される身体症状の悪さを軽減するには至らなかった。また、技術の実践頻度と仕事にまつわる様々な適応感情との間には、年齢と健康状態をコントロールした偏相関係数で「.25」前後の統計学的に有意な関連性が見出された。この結果から、技術の実践は、介助者の心理面にも肯定的な効果を及ぼしている可能性の高いことが示唆された。