P.H.L.(ペヤ・ハルヴォール・ルンデ)の技術と思想の特徴
この技術の原点は、利用者の自然の動きを活用して、利用者の持つ力を利用することに有ります。それと同時に、持ち上げる替わりに、押す、引く、回転させるという技術を優先して、利用者とベッドの摩擦を軽減するビニールのような簡単な補助用具を利用します。最終的に他の物で不十分な場合には、リフトのようなより大きい補助器具を利用します。
以下、P.H.Lの著書から技術の思想と特徴をご紹介します。
1.移動・移乗(トランスファー)の定義
P.H.Lは、「移動・移乗(トランスファー)とは、利用者あるいは物体を主として水平方向に動かすこと」であり、「持ち上げ(リフティング)とは、利用者あるいは物を縦方向に動かす動きで、重力に逆らった動きである。」と定義している。
2.移動・移乗技術に必要な3つの要素
- 自然な身体の動きを活用する
- 摩擦部位(移動・移乗時に抵抗のある部位)とその軽減法について理解する。
- ボートの原理(利用者の身体の下にすべりやすい素材を敷いて、自然な動きの方向に引く)
3.利用者を活性化させる
利用者の自然な動きをできるだけ利用し、患者を受け身な存在とさせないことが重要である。そのためには、下記のことに留意する。
- 利用者の筋肉が緊張し動き始めるのを待ってから、介助する。
- 移動・移乗の間に利用者が安心感を得るために、<1>バランス、<2>リズム、<3>速度、<4>動作の方向という4つの要素を理解する。
- 利用者の主導権を与える(患者が自分で動き始めるようにし、介助者はそれ以上自力で動けないところから介助する)。
4.職員の作業努力と身体的負担のレベル
P. H. L.は、利用者の能力を評価する事によって、職員の移動・移乗方法に3つの段階を設けることを提唱している(図1参照)。
この考え方は、常に利用者の能力を評価することにより危険性を分析し、利用者と介助者双方の限界を見極めることで、移動・移乗が快適に行われ、かつ事故の危険性をなくすことにつながる。
5.組織作りと指導
この技術は、利用者の心身の状況を分析し、多くの仮説を基にして、利用者の機能に合わせた個別的な解決法を選択する。これは、単に暗記された類型化した解決法を学ぶよりも、はるかに創造的な学習過程であり、介助者の思考の変革が求められる。こうした学習過程を組織化すると同時に、法律を後ろ盾とした介助者の身体的負担の限界を明確にする必要がある。この技術が組織全体に浸透するためには、長期間にわたるプロジェクト活動を要する。