代表的な移動・移乗技術紹介
持ち上げない移動・移乗技術 〜介助者の腰痛を防ぎ利用者の自立を支援〜
ベッド上での上方移動
仰臥位から側臥位への体位変換
ベッドから車いすへの移乗
ベッドからストレッチャーへの移乗
褥瘡のある人の体位変換
褥瘡予防の小枕の移動
1.褥瘡予防の小枕の移動とは
ペヤ・ハルヴォール・ルンデは、定期的に最低2時間毎の体位変換を行う以外に、小枕をマットレスの下に差し入れることによって、身体に荷重のかかる場所を移動させて褥瘡を予防することを「褥瘡予防の小枕の移動」と名づけています。
小枕はマットレスの下から挿入し、身体の6箇所を順次、移動させます。訪室した者は、移動順のルールに従い必ず次の部位に小枕を移動させます。
褥瘡予防の小枕の移動
- 素材は滑る素材を使用すると出し入れが容易になり、鮮やかな色は挿入部位が一目でわかる。
- 小枕の素材は、100円ショップで販売されているナップザックの活用が有効。
中にバスタオルを畳んで、2分の1くらいの深さまで入れ、口紐を結ぶ。
ナップザックが手提げタイプになるものは、手提げ部分の紐を持って容易に小枕をマトレスの下から引き抜くことができるので便利。
2.小枕の移動の実施とその効果
この方法を看護や介護現場で実施したところ、褥瘡予防や褥瘡の治癒によい結果を得ました。
高齢者福祉施設の研修で褥瘡予防の小枕の移動について検討し、現場で実施したところ、褥瘡が治癒したとその有効性が報告されました。実施した事例はターミナル段階の方で、数年来仙骨部に褥瘡の発症と治癒を繰り返していた方でした。通常の2時間ごとの体位変換に加え、小枕を約30分間隔で移動させたところ、利用者は亡くなられたとき、褥瘡は治癒し、皮膚は、きれいなピンク色だったとのことでした。
利用者の重度化が進み、褥瘡発生のリスクが高い利用者も増加していることから、介護・介護現場において「褥瘡予防の小枕の移動」を導入する価値は高いと思われます。
高齢者総合福祉施設における「褥瘡予防の小枕の移動」の実践結果について調査を行い、技術の効果を検証し学会に報告しました。内容は本ホームページの「学術研究の歩み・学会報告」をご覧ください。
3.「2時間毎の体位変換をせずに、小枕の移動さえ行えばよい」は本当なのか?
最近、移動・移乗技術の研修で上記のような質問が寄せられるようになりました。
これは、田中マキ子「ポジショニングの新しい手段 小枕を用いた体位変換の検討」Expert Nurse」Vol.30 No1 p.10-13 2014 の論文等の影響があってのことかと思われます。
そこで、ルンデ氏の理論と田中氏の論文を比較し、田中氏への反論を(1)〜(4)にまとめました。
- (1)田中氏は論文を雑誌に掲載するにあたって転載許諾申請の手続きを行っていない。
田中氏の論文は、ルンデ氏並びに移動・移乗技術研究会の著書から文章と図を掲載しているにもかかわらず、転載許諾申請の手続きを経ておらず無断転載となっている。また、論文中「小枕の移動」を「スモールチェンジ法」と改変しているが、このことも著作権者としては承諾していない。
論文中、自説に適した部分のみを掲載し、自説に合わない部分は削除するといったことが見られるが、これも研究の倫理に反する。((③)参照)
- (2)体位変換の研究は、体圧分散のみならず多角的な視点からの検証が必要となる。
体位変換の目的・効果として、①体圧の分散、②内臓機能を正常に保つ、③循環障害を予防する、④沈下性肺炎の予防、⑤関節の拘縮や変形を予防する、⑥同一体位による身体的・精神的な苦痛を緩和する等があげられる。健康な人間は睡眠中、一晩に20〜30回は寝返りを打ち、無意識に体圧を分散させている。このため、ルンデ氏が指摘するように、「患者が自力で姿勢を変えられなかったり、神経麻痺のために圧迫を感知しないときは、職員がこの作業を引き受けなければならない」ことになる。
田中氏は、「2時間以上血流が遮断されると皮膚に不可逆性の変化が起こり、組織壊死に至るといわれていることから、臨床現場では2時間毎の体位変換が行われてきた」しかし、「昨今、臨床症例に基づく研究や体圧分散寝具の開発等により、「2時間毎の体位変換」の理論を覆すような結果が示され、時間間隔を条件とする体位変換の方法の見直しが求められている」としている。では、どのような体位変換の方法が求められるというのだろうか。
田中氏は、ルンデ氏の「小枕の移動」を用いて、2例の基礎的実験を行い、「体位変換の方法の見直しが求められている」と論じている。
2例の基礎的実験とは、①健康な成人女性1名に、「仰臥位」と「30分おきにスモールチェンジ法」を実施し、比較した結果、仰臥位に対して、スモールチェンジ法は有意に平均体圧が低い。②「全身浮腫がある肥満患者にスモールチェンジ法」を実施した結果、開始から2か月間、褥瘡の発生は見られなかった、というものである。
しかし、体位変換は体圧の分散のみが目的ではない。ルンデ氏の理論の幅広い視点と異なり、田中氏の論は限定された目的・方法に基づくわずか2例の基礎的実験によるものであり、2時間毎の体位変換の方法を見直す論にはなりえないと考える。
- (3)小枕の移動に関するルンデ氏のコメント
ルンデ氏は小枕の移動を行っても、「注意!患者も同様に最低2時間に1度寝返りをして、肺の分泌物を排出しやすくする」とし、沈下性肺炎予防の重要性を主張しているが、田中氏はこれを削除し論文に記述していない。2014年3月2日に来日したルンデ氏から、2時間毎の体位変換を抜きにして小枕の移動を行ってはならないとのコメントがあった。 - (4)褥瘡予防は小枕の移動のみで十分か
田中氏が論じるように、「スモールチェンジ法で十分な効果が得られるのであれば、患者にとっての負担軽減はもとより、看護者・介護者における身体的疲労軽減や、時間の短縮、経費削減(費用対効果)が期待できる」といえるのだろうか。2時間毎の体位変換が行われず、「小枕の移動」のみでケアされる患者に、どのような負担軽減があるといえるのか。また、在宅で30分毎の小枕の移動を取り入れることは、2時間毎の体位変換よりも介護者の介護負担を増加させる。体位変換の研究は、費用対効果を重視するよりも、利用者のニーズを中核に据え、体位変換の目的に照らし合わせ、多角的な視点から行われるべきである。
4.移動・移乗技術研究会編集「今日から実践!“持ち上げない移動・移乗技術”」の一部修正
移動・移乗技術研究会編集「今日から実践!“持ち上げない移動・移乗技術”」の「小枕の移動」に関する部分は、コラムの取り扱いのため、「注意!患者も同様に定期的に最低2時間に1度寝返りをして、肺の分泌物を排泄しやすくする」という記述を入れておりません。今後、改定するときには、必ずこの内容を加筆する予定です。このため、ホームページにおいて、この部分を加筆いたします。
スライディングシート するーと
移動・移乗技術研究会では『スライディングシート するーと』 を開発し、販売しています。
詳しくは、するーと ホームページ をご覧ください。
ベッド上の移動(上方への移動)
膝を立て、両足の下に滑り止めを置きます。
上方に移動するためには、膝を立て、足に力が入るようにします。
枕と肩の下に ”するーと” を入れます。
枕の下から肩(肩甲骨)まで入れることが大切です。利用者にできるだけ頭を上げてもらいましょう。
腰が上がれば一人で上方に移動できます。
足に力が十分に入らない場合には、膝下を押します。腰を上げることができない場合は、腰の下にも滑るもの(ビニールなど)を入れます。
仰臥位から側臥位へ
反対側のベッド柵を寝返る手でつかんでもらうと、肩の下に少しの隙間ができるのでそこから差し入れます。
数回に分け、回転させながら側臥位にします
(2)肩を回転させる
下側の下股の膝下と大腿部に手を添えて、腰を深く曲げます。側臥位は腰を 「く」 の字に深く曲げると姿勢が安定します。
”するーと”の抜き方
輪になっている下側のシートを持って、圧のかかっていない部分から引いて、最後に圧のかかっている部分を静かに抜きます。
”するーと”を安全にお使いいただくために
- 使用後は必ず抜き取ってください。
- するーと は滑りやすいので、取扱いには十分ご注意下さい。
床などの足元や、お子様の手の届く場所に放置しないで下さい。 - 乾燥機のご使用は避けてください。